迷いと決意




フリーダムと共に降下してきた真紅の機体を見た瞬間いてもたってもいられず
アスランは痛みをこらえ格納庫へ向かった
そこにはピンクのパイロットスーツに身を包んだラクスが立っていた
「ラクス!!」
アスランが呼ぶとラクスは振り向き暖かな笑みを向ける
「アスラン」
「ラクス様…?」
何故ここにラクスがいるのかわからないメイリンは不思議そうな顔をしている
「まさか君が乗っていたなんて、大丈夫か?」
「はい、本当にただ乗っていただけですから」
「そうか、良かった」
ラクスにとっては初めての降下なので心配していたがどうやら大丈夫なようだ
アスランは安堵し笑みを深くした
「アスランこそ大丈夫ですか?」
「えっ?あぁ」
女の子に支えられて全身包帯だらけでは心配するのも無理はない
「大丈夫だ」
自分を情けなく重い苦笑しながら答える
だが次に続けられた言葉に息を呑む
「お体のことではありません」
体のことではない、というのなら考えるまでもない
議長のラクス―――ミーア・キャンベルのことだろう
目を合わせていられなくなって咄嗟に目を逸らすとラクスの目が悲しそうに細められた
後ろめたい気分を振り払ってアスランは問いかけた
「ジャスティスか…」
「はい」
そう答えたラクスもまたさっきまでの少女の顔ではなく冷たい戦士の目をしていた
「俺に…?」
冷たく鋭い眼差しをラクスに向ける
それに臆することなくラクスは答えた
「何であれ、選ぶのはあなたですわ」
アスランはラクスの答えに苛立った
今のアスランにはラクスが信じられなかった
―――いったいラクスと議長のどこが違うんだ!!
     こんな力を見せてただ戦え、戦えという
     俺はただ戦士として兵器としては生きられない
そう思った瞬間心の奥底に閉じ込めた思いが堰を切ったかのように溢れ出した
「君はっ、君まで俺はただ戦士でしかないと言いたいのか!!」
ラクスは何も答えなかった ただ青く澄んだ目でアスランを見つめるだけだった
それはアスランを更に苛立たせた
―――何故何も答えない
アスランは更に声を荒げた
「こんなものを作り、わざわざ運んで、そんなに俺を戦わせたいのか!!」 「違います」
「何が違う!」
気に入らない 何もかもが
議長やレイの言葉、ラクスの言葉、そして自分自身さえ
「聞いて下さいアスラン、私は」
「選べって言いたいんだろう、あの時みたいに」
「はい」
青く澄んだ冷たい目に似た計り知れない闇を宿した目
脳裏に浮かんだのは
「ギルバート・デュランダル」
ラクスの目が細められる
「彼も同じような事を言っていた。俺に選べと…」
アスランの言葉を聞いてラクスは信じられない思いになる
―――アスランは、私のことも信じていない?
「アスラン?」
「だから選んだ、力を得ることを…だがその力はまた大切なものをひどく傷つけた」
アスランの顔に痛みが走る エメラルドの瞳が微かに揺れている
その瞳の奥にラクスは何かを見た
―――アスランはもしかして…
「それに俺はもう人形や兵器にはなりたくない!!」
アスランの瞳から涙が零れ、体は小さく震えていた
「くっ……ふっ……っ」
その場にくず折れたアスランは小さく嗚咽を漏らした
ラクスはアスランを優しく抱き締めた
内心動揺していたのかもしれない 
こんな風になくアスランをラクスは見たことがなかった
そしてまたラクスは確信した
「アスランは自分自身が怖いのですね」
―――怖い?自分が?
「自分が力を持つことが怖いのでしょう?
 大切なものを傷つけてしまうかもしれないと…」
アスランの体がびくっと震えた
―――そうだ、怖かったんだ自分が…
     いつも大切な人たちを傷つけるばかりで…
守る為にと手にした剣は多くの人を死に追いやった
また生まれ持ったザラの力は多くの人を傷つけた
―――ごめんなさい、俺の力のせいで
     ごめんなさい、俺のせいで
     ごめんなさい、ごめんなさい
「あっ…あぁっっ…」
忘れようとした闇がアスランを包み込んだ
「あああああぁぁぁぁぁっっっ」
―――いやだ!怖い、戦いたくない
     傷つけたくない、ただ守りたいだけなのに
     どうして…
「もう誰も殺したくない!!」
「……わかりました」
ラクスは優しく頭をなでた
「大丈夫です、何も怖くありません 
 私たちはここに、アスランの側に居りますから」
顔を上げたアスランはザラ家の嫡男でもザフトのアスラン・ザラでも
不器用に笑う青年でもなかった
ただ闇に怯えて泣く少年だった
「大丈夫です、私が守りますから」
「守…る…」
「はい」
「ありがとう……」
アスランは子供のように泣き続けた








「落ち着きましたか?」
「あぁ、すまない…」
止まらなかった涙がようやく止まり、アスランはいつもの落ち着きを取り戻した
正直、さっきまでのことを思い出すと恥ずかしくてたまらない
だが、当のラクスはなんとも思っていないようだ
「いいえ、それに謝らなければならないのは私の方です」
「え?」
「私はあなたの思いも知らずこんなものを……」
ラクスが悲しげに顔を歪める
そんなラクスにアスランは小さな笑みを浮かべた
「いや、気にしなくていい。それに…」
「はい?」
「やっぱり俺は戦士でしかないのかもしれない」
ラクスが驚いてたずねる
「なぜ、そう思うのですか?」
アスランは立ち上がりジャスティスを見上げた
「戦いたくないと思っていても力を欲してしまう
 無力な自分が嫌でたまらないんだ」
「キラも同じようなことを言っていました」
ラクスもアスランの横に立ちジャスティスを見上げた
アスランがラクスに目を向ける
「何かしようと思ったとき、何もできなかったらもっと苦しいと…」
「そうか…」
アスランの胸に暖かいものがこみ上げる
―――キラはわかってくれる、同じ思いをしてるんだ
「なら俺も行かなくちゃならないな」
「アスラン!!」
ラクスが止めようと口を開く
「いけませんアスラン、さっき戦いたくないとおっしゃったではありませんか」
「あぁ、そう言った」
「ならば何故?」
エメラルドの瞳がさっきとは違い穏やかに揺れている
アスラン自身、とても穏やかに微笑んでいる
「戦いたくないのは皆同じだろ?」
「ですが、今のアスランは力そのものに嫌悪の情をいだいているはずです
 ですから私はアスランに選んでほしかったのです」
ラクスが必死に言い募る
―――いかせてはいけない、あんなに怖がっていたのに
だがラクスの思いに反してアスランの決意は固い
「あぁ、だから俺は選んだ、戦うことを……」
「アスラン……」
「俺やっとわかったんだ、議長とラクスの違いが」
「えっ?」
「ラクスやキラ、アークエンジェルの皆は俺を俺としてみてくれる 
 戦える戦えないにかかわらず俺のこと受け入れてくれる」
その声にさっきまでの迷いや恐怖は無く澄んでいる
「だが議長は俺の力しか見ていない 俺の想いなど関係ないんだ」
「アスラン……」
「どうして忘れてたんだろう、とても大切なことなのに
 俺にとって戦ってでも守らなくちゃならない人たちなのに……」
ラクスは複雑な思いに苛まれた
やはり、こんな力は見せるべきではなかったのかもしれないと
キラやアスランに力を見せれば二人のことだ、必要なときは喜んでその手に
するだろうことはわかっていた
だが、ラクスにはキラやアスランの本当の想いがわからない
なぜならラクスは人を殺したことが無い
二人と見てきたものが違うのだ
そしてラクスは知ってしまった、アスランの本当の想いを痛みを
殺したくない、誰だってそう思うだろう
頭では理解していてもちゃんとわかっていなかった
だが今は違う、だからこそ行かせたくないのだ
「ですがアスラン!!」
「想いだけでも、力だけでもだめだと思うから…」
それはかつてラクスがキラに言った言葉だった
―――もう、止められない
「アスランが行きたいと望むところにこれは必要なのですね…」
「あぁ…」
―――止められないのなら、せめて
ラクスは微笑んだ
「なら行って下さいアスラン、新たな剣と共に……」
「ありがとう、ラクス」
「アスラン……」
アスランの頬に手を添えるとアスランがその手を握った
「帰って来て下さいね、キラと一緒に
 皆お二人の帰りを待っていますから、そして私も」
「あぁ、帰ってくるよ必ず」
「約束ですよ」
「あぁ」



―――ありがとうラクス、俺に力をくれて
     ありがとうラクス、俺に帰る場所をくれて



―――帰ってくるよ、必ず
     大切な人たちが待っているここに
     必ず帰ってくるから 
     必ず守ってみせるから



「行こうか、ジャスティス…」




まだ迷いはあるけれど
まだ道は、答えは見つからないけれど
本当はとても怖くてしかたがないけれど
いつか、平和なときが来ると信じているから
それまで、俺は戦い続けるから



「アスラン・ザラ、ジャスティス出る!」



戦禍渦巻く空へ俺は再び飛び立った




* * * *

2006/03/30(Thu)

ごめんなさい…この小説、1ヶ月ぐらい前にできてたんです…
本当はもっと前にupするつもりだったんですけど
気がつたらなんか時間がたっててもうビックリですよ!!
しかも久しぶりに読み返して自分の文章力の無さに更にビックリ!!
あ〜誰か助けて〜
〜暁〜